2012年3月19日月曜日

いあん

先週末から日曜日にかけて研究室の面々と慰安旅行に偽装した巡検に行っていました.

この企画,元々は,当研究室の教授殿が,色々あった 2011 年を締めくくるにあたって「年度末に温泉でも行ってのんびりしたい」と言い出したことから計画がはじまりました.それが,いつの間にか,フィールド調査の日程と一緒にすることになり,そのフィールド調査先が非常に魅力的であったことから,フィールド巡検がメインの旅行になり,最終的に,本来予定していた日程に,大雪が降ったため日程が順延され,一番慰安を求めていた教授殿が参加できなくなる,という経緯をたどった結果,一体,どんな企画なのかよくわからない旅行になったのでした.

そんなわけで,金田一温泉郷の「割烹旅館 おぼない」に逗留しながら,岩手県北部に分布する白亜紀の浅海〜瀕海堆積物を巡るという,素敵な慰安旅行に行ってきました.

今回の旅行の,個人的な目的は,浅海で形成される様々な堆積層の実物を見て回るという点でした.そのため,温泉に入ってゆっくりしたいという欲求はあったものの,それ自体は,完全についでのつもりでしたw

……しかし,実際に岩手県北部に乗り込んでみると…….

一面の雪原!露頭が見えない!

……そんなわけで,今回の旅行初日で巡る予定だった露頭の多くは雪に覆われていて,本巡検の目的の 1/3 くらいは失われてしまったのでした.……正直,岩手県北部の気候をなめていました(旅館の美人若女将の話によると雪解けは 4 月末頃とのこと.北海道と変わらねーw).

しかし,気を取り直して,翌日に巡る予定だった本巡検のメインである海岸沿いの露頭に希望をつなぎつつ,宿にて温泉三昧&豪華な夕飯で大宴会へと傾れ込みました.

すごく豪勢な夕飯!写真はありませんが,宿も温泉も若女将も素敵でした!

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2 日目は,今回の巡検のハイライトである海岸沿いの露頭の調査でした.正直,前日に雪原を見ていたので,大きな期待はしていなかったのですが,そんな,我々を待ち受けていたのは……!

ドドドーン!!海岸沿いに延々と続く白亜系の超連続露頭!!

我々の予想をとても良い方向に裏切る大露頭に一同大興奮!大張りきりで調査をはじめたのでした(メンバーの一部はこの日の昼で帰ることになっていたので,実際に 2 日間喜び勇んで調査したのは全員ではありませんでした).

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以下,本巡検で撮った写真の一部を

トラフ状斜交葉理.波の営力によって,海底に砂が堆積する際に形成される.大雑把に嘘をつくなら,波の形を海底の砂がトレースしながら堆積したもののようなもの断面が見えています.

露頭表面の状態が良くないので若干分かりにくいですがハンモッキー斜交葉理です.写真中央部の葉理が緩やかな上に凸の曲線を描いているのが見えると思います.このような地層は,嵐などで非常に周期の長い波が発生した際に砂が堆積したことで形成されます.

群生するカキの化石.殻が 20 cm 以上になるほど成長しています.さぞ,食いでのあるカキだったことでしょうw

教科書に使えそうなくらい美しく完璧な傾斜不整合.緩く傾斜した下位の地層を,ほぼ水平な焦げ茶色の礫岩層が明瞭な浸食面をもって覆っているのが見えると思います.このような地層の間(傾いた地層と焦げ茶色の地層の間)には,大きな時間間隙が存在することが想定されます.

現在形成されつつあるリップル(手前の小川の川底)と白亜紀の斜交葉理(後ろの露頭).水の流れがあるところで砂が堆積すると,緩やかに波打った底面が形成されます.そのような波打った堆積面をリップルといいます.後ろの露頭で見られるトラフ状斜交葉理(上写真および解説)とは形成される環境が若干異なりますが,同様に「水の流れ」による堆積で形成されるものです.

雪で埋もれていますが,大きな横穴が見えると思います.この地域は,琥珀の産地として有名ですが,この横穴はかつて琥珀を採掘していた横穴の入り口です.このような穴は「くんのこほっぱ」と呼ぶそうです.音の響きが素敵.

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余談ですが,今回調査した地域は,昨年の 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた津波により大きな被害を受けた地域です.今回,調査を行った海岸沿いは,広範な被災地域の隣接地域でしたし,調査を行っていた場所は,まさに津波によって洗い流されたであろう海蝕崖そのものでした(実際,露頭の状態が非常に良かったのは津波によって洗い流されていたためでしょう.また,津波によって根元から折れた木が多く見られました).

当然,いま世間を賑わせている津波瓦礫の巨大な山もありました.政治もなにも解らない,いち学徒として,何か大きなことを言えるわけではありませんが,少なくとも,発生した非日常を日常に戻すために,同じ日本人として必要な協力要請に対して,答える努力は惜しむべきではないんじゃないかな,と心の底から思いました.