ふとしたきっかけで,高校時代の恩師である盛口襄先生が体調を崩されて,一昨年度に引退されていた,ということを知った.まぁ,僕が化学の授業を受けていた約 10 年前に,すでに相当のご高齢であったので,仕方がないのかなぁ,とは思いますが,理科教育者として非常に素晴らしい先生であったので,少々,残念に思います(公立高校退職後にうちの高校へ赴任されていたので,当時,すでに 70 歳を越えておられたと思います).
ここで,「この先生に会っていたから私は理科の道に進みました!」とか言えると格好がつくのですが,流石にそこまでのことは言えません.しかし,少なくとも,自分のサイエンスに対する考え方の根幹の部分は,高校時代に盛口先生(と同じく高校時代の恩師である生物の茂田井先生)に叩き込まれた哲学に拠っている部分が多々あります.
盛口先生の授業は,基本的に授業における理論の解説を担う手書きのプリント(実家に帰ったらまだ眠っていそうだから,今度,漁ってみようかな……)と,先生が独自にアレンジした簡易実験のみから成り立っていて,いわゆる「普通の化学の授業(というものを受けたことがないので,どういうものかわかりませんが)」とは全く違っていました.「実験を通して,実験そのものや得られたなにかを理解しろ!」といったスタイルで,授業そのものはかなり難解なものでした(理解しようという努力や,そもそもの理科に対する興味がないと即死に近い.実際,試験になると点数分布の高得点域と低得点域に山ができていて,低得点域の山がとてもでかい).……しかし,今現在自分の頭の中にある理論化学の分野の知識はほとんど盛口先生の授業で教わっている記憶があるので(それこそ,量子論やらオービタルモデルやらまで),たぶん,ちゃんとした理論化学の講義もやっていたんだろうなぁ,実験の授業と違って,ほとんど印象にないけれど…….
個人的な思い出としては,当時,新興進学校にありがちな「東大受験偏重」な空気の中,空気も読まずに「北大受けたい」とか言っていた僕に,夏季講習(問題演習中心)の終わった後の時間を使って,北大の化学の試験の傾向と対策を教えてくれたことや,なんかの化合物(アミノ酸だったかな?)を作る実験で,手順を間違えていないのに結晶化に至らないのが納得できなくて,放課後に残って実験をしなおしていたときに,下校時間ギリギリまでアドバイスをしながら実験に付き合ってくれたこと(ちなみに,最終的にはきちんと結晶化しました),などが印象に残っています.
教壇を去ってしまわれたことは残念ですが,体調に気遣いつつ,自由な時間を満喫されることを願います.