ひとつ前の記事の類例.
音楽専門学校の講師をしている人が自分の学生の 1 割程度しかビートルズを知らなかったことで,「専門学校に来る程度に音楽を志向するならもっと色んな種類の音楽を聴いてくれ……」と苦言を呈したという話.大友の話と同じような老害が若者に権威主義を振りかざしている構造のように見えて,ちょっと違うようです.僕が,大友はどうでもいいと思っているけれど,ビートルズに関しては信者だという事実は,たぶん,関係ないと思う(思いたい).
大友の話と違うのは,ほかにいくらでも選択肢がある中で,曲がりなりにも音楽の専門学校に行く程度に音楽に志向していながら,聞かないでいることが難しいくらい世の中に溢れている大メジャーな部分(というか基礎)を無意識(か意図的か)のうちにスルーしてしまっている程度に音楽に興味を持っていないという点だと思います(あっちの話は "漫画好き" を称しているとはいえ,単なるいち読者が大友を読んだ上で正直な感想を述べているという話).
結局,この話の専門学生の多くが普段どんな音楽を聴いているかというところで,アニソンやニコニコ動画の歌い手やボカロ曲というオチがつき,現在,ネットで大盛り上がり……という展開を迎えているようなのですが,実は,その点はどうでもいいところです.実際,いまのアニソンはアニソンというジャンル名でくくるのが間違っているくらい曲調が多岐にわたっていますし,素人作曲とはいえボカロ曲にだっていい曲はあります(言外に大半はゴミだという含みをもたせつつ).
ここで面白いのは,件の専門学生たちは,たぶん,音楽が好きで,アニソンという狭い枠の中かもしれないけれど,ある程度多様なジャンルを内包している楽曲群を好んで聴いているだろうにもかかわらず,普通に生活していたら嫌でも耳に入ってくるくらい世の中に溢れているビートルズの楽曲が意識に入っていないというところです.
この理由は,彼らは音楽が好きである以前にサブカルチャー(というかアニメ)が好きであることから,明瞭な興味の指向性があること,ネット上で簡便かつ(白黒の是非は問わず)無料でアクセスできるものにしか到達できないということの二点で説明可能です.自分が興味があることの延長だから聞くのを厭わないとか,検索して簡単にタダで聞けるとかが,彼らにとっては音楽の良し悪しや好み,ジャンル分けよりも重要なのでしょう(アニソンというくくりをジャンル名として用いているあたりからもそれが伺える.アニソンには HM/HR もあれば,民謡調のものもあるし,ジャズ風の楽曲もある).
たぶん,この世代にとっては,そもそも自分の興味がない世界は存在しないし,仮に偶然興味を持っても,自分の検索スキルで引っ掛けることができないものは存在しないのではないかと思います.要は,街中で,CM で,TV 番組の挿入歌で,コンビニの有線で,偶然聞いた「いい曲」を,CD 屋で店員に聞いたりとかしながらなんとか調べて,音源を手に入れたりする,というのは,すでにおっさんの価値観なのでしょう.ネットでの検索が便利になりすぎて,そこで簡単に調べがつかないものについて,自分の検索スキルを疑うことなく,存在しないものとして無視できてしまう素敵な世界なのかと思うと,寂しいような気がします.