2014年7月23日水曜日

古生物と萌えの親和性とかアウトリーチとか

世の中では,だいぶ昔から「○○の萌えキャラ化」というものが流行っているけれど,寡聞にして古生物系統のネタが萌え産業にて成功したという話は聞きません(そもそも,こういう「萌え」商売で成功した例があるのか,という話は置いておいて…….あ.艦コレとかそうか).

一部界隈で盛り上がっている某瑞浪博物館イチオシの萌えキャラであるところの某瑞浪ミオちゃんも,盛り上がっているように見せかけて,古生物に興味がある層の中で萌えキャラに嫌悪感を抱かない人々がきゃっきゃと騒いでいるだけに過ぎません.端から見ていて,正直,リアルな意味で痛々しいです.ただ,このキャラについては,このあと話をしたいことの逆をついて「古生物に興味がある少女(JC)」をモチーフにしている分,いくらかマシな展開も出来るかもしれないとも思います.

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結論から言うと,古生物と萌えには親和性はありません.

そもそも,古生物の本質は形態学であって,いわばその「形」に萌える人間によって作り上げられた記載の体系です.一方,いわゆる「萌え」とは,東浩紀氏からはじまるサブカル論の議論を持ち出すまでもなく,「萌え要素」というオタク好みのフォルムに基づく形態記載の体系であると総括できます.ある形態記載の体系を別な形態記載の体系で置き換えることに,意味がないことはいうまでもないでしょう.

船の形態を萌え要素に置き換えた「艦コレ」が,成功した商売でいられるのは,「艦コレ」が「淡いエロを含んだ戦闘ゲーム」という商材だからであって,別に艦船形態のアウトリーチではないからです.しかし,古生物の萌え化は,アウトリーチとして成功しなければ,そもそもする必要がないのです(つまり,萌え化とはちょっと違うけれど,商材として優れていた「恐竜キング」がアウトリーチに果たした効果がどれほどあったのか?ということ).

萌え化ではありませんが「ジュラシックパーク」を見たことが古生物の道を歩むことに強く影響を与えたという狭義の古生物関係者(=研究者界隈)には会ったことがあります.これは,一見,映画という学問から離れたエンターテインメントが大きなアウトリーチ効果を示したように見えなくもありませんが,日本だけで 83 億円(Wikipedia より)の興行収入を叩き出した大ヒット映画に比して,俺集計で 4, 5 人という数字は,本当に「効果」といえるでしょうか?

※なお,余談ですが,この中に現在も狭義の古生物界隈に留まっている人はいません.

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古生物のアウトリーチには,古生物の形の面白さを用いるべきだと思います.古生物の形とは,怪獣や奇怪な生き物が生き生きと蠢いている絵ではなく,実物であり,レプリカであり,写真であり,スケッチのことです.例えば,ティラノサウルスとトリケラトプスが生き生きと戦っている絵に興味をもつ人間よりも,例えば,ヘリコプリオンの化石の形もつ魅力に取り付かれる人間を増やすことが,古生物のアウトリーチではないかと,そう思うわけです.