2014年10月5日日曜日

天才の仕事

「ニッケルオデオン(青)」 道満晴明

道満先生のショートマンガ集,ニッケルオデオンのシリーズ最終巻.作品の素晴らしさは言うまでもないのだが,なによりも,またしばらく道満先生のショートマンガがコンスタントに読めなくなってしまうという喪失感が強い.道満先生は,日本の全ての作家と呼ばれる存在の中での最高峰だと思う.

既刊である(赤)(青)では,一般紙であるためか,やや性的な表現やグロテスクな表現,死の臭いを感じさせる表現などが,やや抑え気味という印象を受けたが,連載終了に向けて加速したためなのか,その辺りの自主規制をやや解放気味にしたような話が見受けられ,「性本能と水爆戦」シリーズのテイストに似た雰囲気をもつ話が多い印象を受ける.僕自身は,道満先生の作品が掲載されているからという理由だけで(何しろ,ワニマガジンは単行本化がてきとーなので)快楽天を定期購読していた程度の道満先生のファンなので,規制されるようなヤバい臭いの中に現れる瞬間的な悲哀とか美とか,そういうキラキラドロドロとした欠片を無機質な棒人間のような絵柄の人間たちを使ってクッキリと切り取ってしまうような作品群が堪らなく愛おしく感じてしまうのだ.

(青)の中では,チーコとウロフィリアとナルナとうたかたの日々が際立って良かった.積めない方程式は,「醜悪な巨大ロボットと花」的なものの翻案で,やや狙い過ぎの感があったけれど,単行本だけにつく二段オチの二段目がちょっと好きだった.特にチーコはいかにも道満先生的で,頭のネジが吹っ飛んだ女の子とそれを愛してしまった男の子のディープラヴで素敵でした.道満先生の描く頭のネジの外れちゃった女の子は,どうしてこうも魅力的で心をザワザワさせるんだろうか…….ナルナの欠損娘ちゃんも,やっぱり,どこかネジが吹っ飛んでいてよかった.

日本というごちゃ混ぜのるつぼみたいな文化の中の更に混沌のサブカルチャーの中だからこそ生まれてきた道満晴明先生の作品群は,だからこそ無二で,キラキラと輝いていて,この小さな火が消えることなく,またどこかでショートマンガを書ける場を得て欲しいと思います.