2012年1月13日金曜日

エーレンベルクとわたし

エーレンベルク(Christian Gottfried Ehrenberg)というと 19 世紀初頭に様々な,そして大量の微生物を非常に素朴に記載し,今日の微生物学の礎を築いた偉大な博物学者です.同様に初期の微生物学・微古生物学を担った科学者でいうと,一般的には,19 世紀後半に,アートと言っていいレベルの極彩色の多彩な生物(多くの微生物を含む)の絵画を残したヘッケル(Ernst Haeckel)のほうが最近出版された「生物の驚異的な形」などの影響で,知名度が高いのかもしれませんが(高校生物で習う反復説なんかの業績もあるし),僕のいる業界(微古生物学,地質学)に限っていえば,エーレンベルクがいなかったらそもそも学問が興らなかったという意味で非常に重要な人物です(微生物が化石として残るという概念,岩石の形成に生物 [微化石] が関与しているという概念 [例えば,映画「けいおん!」の ED で HTT メンバーが立っていたドーバーの白亜の崖が直径数 μm の化石(円石)からできているという概念] などの発見など).

……で,何故にエーレンベルクに関して長々と語ったのかというと,つい先日,某先生からエーレンベルクの図版(のみ)を見せられて,「この絵から現在の基準で種名分かる?」という無理難題をふっかけられたことで,エーレンベルクに触れたからです(詳しくはこちら).

エーレンベルク(の記載)自体は,僕の専門である渦鞭毛藻および渦鞭毛藻シスト化石の最初期の原記載者としてよく出てくる名前なのですが(記載する個体の原記載がエーレンベルクという状況),今回みたいにエーレンベルクのスケッチに描かれている個体を,そのスケッチのみから同定するというのははじめての経験だったので(というか,普通にあり得ないw),ちょっと印象に残ったのでした.

大まかな外形からエーレンベルクが Peridinium 属として記載しているであろうこと,僕の知る限り Plate 配置と外形とエーレンベルクの記載した種がどういう扱いになってるかという知識から Palaeoperidinium 属にあたりをつけて,記載を総当たりしたら思いのほか早く種名を特定できたので,仕事としてはかなり楽な部類でしたが……(とはいえ,dorsal side のみしか描かれていない,分類に重要な archeopyle が不明瞭,そもそもスケッチが逆さまなんて代物でしたが).

ちょっと驚いたのが,エーレンベルクのスケッチの正確性.素朴ゆえに確実に見たものをそのまま描いている感じが素敵でした.

ちなみに,このお仕事のお礼はその先生がエーレンベルクのコレクションの再検討プロジェクトに関わったときに作ったモノグラフでした.普通に過剰報酬でありがたかったw